良く聞く説明の決め台詞「シャトル織機でゆっくり織ってますからね〜!」
ショップ店員ならまだしも、職人ですらドヤ顔でこれを言うところあるので残念すぎる現状です。
シャトル織機=ゆっくり織る=風合いがいい
と思っている人多いと思いますが、そうではないです。
ゆっくり織ることは、さほど風合いに影響していないワケなのです。
今回は、その辺を簡潔に書いてみようと思います。
風合いってなに?という方はまずこちらを参考ください
ゆっくり織る=風合い良い、ではない
シャトル織機といっても、産地によって機械も違えば織る速度も違います。
80回転でゆっくり織るものもあれば、180回転ぐらいで織るものもあります。
それらは、糸の条件やその工場の方針による違いによってです。
高速織機と比べると、遅いスピードで織ることになりますが、
シャトル織機でゆっくりと言っても、だいぶ差があるのです。
では、高速織機と比べて風合いがどうなのか?
これは決してスピード一つとってわかるものではないです。
高速化に伴って、そもそもの織機構造が違うからです。
それから、各工場での風合い出すための工夫があるので、一概に織機による違いとも言えません。
高速織機でも風合いは出せるワケなので、
ゆっくり織るシャトル織機だから・・・とは全くならないのです。
では、大まかにシャトル織機は何がどうなの?についてです。
シャトル織機で織った生地の特徴
シャトル織機の特徴を踏まえると、大まかに4つあります。
1)耳がある(デニムでいうところのセルビッチ)
2)膨らみが出る
3)均一感
4)柔らかさがある
ひとつひとつ見ていきます。(僕の独断と偏見入ってるかもしれませんが)
1)耳がある(セルビッチ)
一番わかる違いといえば、これです。
シャトルの往復運動になるので、端が絡んで耳ができます。
メリットとしては、2つ
・サイドの縫製が必要ではないこと
・折り曲げないので厚みが出ないこと
レピア織機でもタックインと呼ばれる装置を付ければ、耳を作ることは可能です。
が、どうしても切った糸を中に織り込むので、耳に厚みが出ます。
シャトル織機ではここを活かすことがポイント
ストールや着物にした時の、肌触りの良さで重宝されるのです。
2)膨らみが出る
シャトル織機だから出せる風合いの一つです。
構造的な違いはレピア織機と比べて、開口が大きいこと。
弓形に糸が飛んでオサがバッタンと閉まる、
これが糸の余白を作ることになり、仕上げたときの膨らみに差が出ます。
手織りに近いという説明文を目にすることありますが、(厳密には違うでしょ)
この違いが大きな決め手だろうと思います。
3)均一感
先ほどシャトルの往復運動と書きました。
レピア織機は常に1方向からヨコ糸が出るのに対し、
シャトル織機の場合、ヨコ糸の起点が左右交互になるというのが特徴的です。
糸テンションが左右均一になるので、仕上げた時のバランスが良いワケです。
4)柔らかさがある
糸が端から端に渡るとき、
シャトルの中にヨコ糸が入っているのでタテ糸と擦れる率が低くなります。
ここがメリットで、
特にカシミアなどの柔らかい糸を織るときなど、最大限糸を活かしたままにしたいワケです。
毛羽がある糸同士は摩擦も大きくなるので、シャトルに守られて織るということは、
その糸が持つ特性を活かすということになるのです。
結論|シャトル織機でゆっくり織るから風合いが良いの?
ゆっくり織るは、なんの答えにもなっていません。
シャトル織機の風合いを見るときには、必ず他の織機との違いを比較しなくては意味がありません。
古いシャトル織機だから、とか
シャトル織機でゆっくり織るから、とか
そういうことは、何一つ風合いを語る理由にはなっていないのです。
もし、これからシャトル織機で織られたものをオススメする場合の参考にしてみてください。
ゆっくり織るから良い風合いと言ってしまっては、
今の高速織機メインの生地を否定することになりますヨ
そうではないのです。
もっと掘り下げて、モノづくりの背景を深く見て欲しいなと思います。
そこには、
理屈の上に成り立ってきたモノと情熱の上に成り立ってきたモノの交錯がきっとあるからです。
余談
冒頭に、織っている職人ですらわかっていない人がいると書きました。
それも事実です。というより現状、さほど考えずに織っている場合がほとんどです。
僕も産地に入って織りをやっている職人です。(現在駆け出し5年目)
残念な事実を知る反面、
ハンパない情熱で織り含むモノづくりをやっている人もいることを知っています。
テキスタイルの世界もかなり奥が深いです。
良い生地だと思ったモノを深く突き進んでいくと、見えなかった世界が広がっていることに気づかされます。
そこに日本のモノづくり・テキスタイルの凄みがあると思っているので、
ぜひとも、その辺をじっくりみてほしいと思っています。
そういう思いもあって、こじんまりと僕はブログを書いているのです。
以上、SHOCKMANレポート